ReGeneral インタビュー

専門医が総合診療を使って成長する秘訣―50代からの学び直しのコツを教育のプロに聞く

福島県立医科大学 総合内科・総合診療学講座

菅家 智史 先生

公開日:2026.03.18

2018年の総合医育成プログラムの立ち上げに講師として関わったことをきっかけに、プログラム運営チームリーダーとして携わり続けている菅家 智史先生(福島県立医科大学 総合内科・総合診療学講座)。総合医育成プログラムのほかにも卒前から卒後まで一貫して総合診療教育に携わっている菅家氏に、プログラムの本質と、年齢を重ねてから飛躍する医師の共通点を聞きました。

――総合医育成プログラムに関わるようになったきっかけを教えてください

2018年に総合医育成プログラムを立ち上げるときに、講師の1人として声をかけていただいたのがきっかけです。  その後、2020年以降の対面からオンラインへの移行、2025年には、同期型と非同期型にわけて集合研修時間の短縮といった、ほとんどすべての変遷に関わってきました。経歴としては2012年から福島県立医大におりまして、医学部での講義、初期研修医の教育、ローテート指導、専攻医の教育プログラム責任者など、卒前から卒後まで幅広く教育に携わっています。

現場の困りごとに強くなる――臨床に直結する学びの仕組み

――医学生・研修医の教育と比較して、総合医育成プログラムの特徴は?

一番の違いは、実臨床に即した内容に絞っていることです。  医学部では理論的な講義が多く、専攻医では高度専門的な知識や技術に関する研修が中心となりますが、このプログラムは “現場で困るところ”を確実に扱うこと、未経験の領域でも診療に踏み出せる内容を大切にしています。

例えば耳鼻科では、鼻血が止まらない、整形外科なら怪我やねんざ、それから動物にかまれたなど、医学部でもあまり学ばないのに、実臨床で遭遇すると対応に困るようなものを多く扱っています。各領域の講義はプライマリ・ケアの現場のニーズをよく知っている専門医の先生にお願いし、日本プライマリ・ケア連合学会のプロジェクトチームで細かく内容調整して作っています。

――未経験の領域でも取り組みやすい工夫とは、具体的にどのようなことをされているのでしょうか

医学部卒業後、初めてその領域を学ぶ方を前提に講義を構成しています。言い換えると、専門の方が聞くと“つまらない”くらいのレベル感です。そんなに?と思われるかもしれませんが、それが狙いです。 

私たちは、できるだけ総合的な診療に携わってくださる先生方を増やしたい。そのためには、専門の先生からみたら初歩的だと思えることを、安心して学び質問してもらえる環境がとても大切だと考えています。基本的であり実践的な内容を勉強し、質問を正直にぶつけられる。それがこのプログラムの最大の強みだと思っています。

――なぜ質問を重視されるのでしょうか

わからないことを身につけていただくのが、このプログラムの役割だからです。そして、わからないことは悪いことではありません。どのテーマでも、お1人の困りごとは、ほかの受講生の困りごとでもあります。

ですから、オンラインで集まる同期型学習では、講師の先生方には内容を少し削ってでも質疑の時間を確保できるようお願いしています。1テーマ3時間のセッションで60〜70の質問をいただくので、当日答えきれないときには後日テキストなどで回答いただいています。そのくらい、質問に価値を置いています。

わからないことを恥ずかしいと思ったら学びは深まりません。毎年、いただいた質問や困っている事柄を伝えてもらうことでプログラムの内容に反映し続けています。だから、恥ずかしいといったことは一切考えずに、どんどん疑問をぶつけてほしいと思います。

年齢を味方にする学び方――受講者に共通する伸びる力

――受講生に共通する資質はありますか?

これまでの受講者平均年齢は50代付近ですが、受講する皆さんの共通点は「何か新しいこと、自分が今まで知らなかったことを使ってチャレンジする気持ち」を持っておられることだと思います。

自分は総合診療をしてみたい!と飛び込んでみて、うまくいかなくて試行錯誤して、診療に出ておられる方。今もプログラムの中身も使って頑張っていますというような方。ご自身のおかれた状況で、自分ができることやろうと思う方は、プログラムを上手に使っていただけると思います。

プログラムの中で、「診療に活用できる道具を増やしましょう」という雰囲気でお伝えすることが多いのですが、各分野の知識も、ノンテクニカルスキルも道具です。道具が増えるとやれることも増えます。プログラムで道具を教えてもらったから使ってみようとチャレンジしていただけると、患者さんにとってもプラスになる効果がどんどん生まれるんじゃないかなと思います。

――なるほど。とはいえ、新しいことを学びはじめることに二の足を踏む方も多かったのではないでしょうか

そうですね、多くの受講生から、受講前は近くに似た考えの方がおらず、こんなことを考えていていいのかな?という不安があったということを聞いています。周りにそういう人がいないと尻込みしてしまいますよね。でも、この総合育成プログラムには同じような境遇の方が集まります。  一歩踏み出してみると、「似た思いの人がここにいた」「勇気づけられた」 という声がとても多いです。一歩踏み出しさえすれば、仲間がたくさんいます。ということをお伝えしたいですね。

――受講者同士の交流も重視していると伺いました

はい、講師・受講生間だけでなく、受講生同士の相互作用を意識してライブ研修を組んでいて、ケーススタディやグループディスカッション、ロールプレイなど、受講生がお互いに学びを得る機会を多く作るよう意図しています。 たとえばロールプレイでは医師役・患者役・観察役を担い、「この言い方がよかった」「こういう話の持っていき方がよかった」といった具体的なフィードバックをし合ってもらいます。グループディスカッションでお互いに状況を知って悩みを相談したり、励ましあったりできて、背中を押してもらったというような感想もいただきます。2025年にライブ研修を6時間から3時間に短縮しましたが、それでも受講生同士の交流の密度や熱量を保つように毎年改善を続けています。

専門医が“総合診療”を使いこなすためのマインドセット

――受講後、総合診療の実践に移す際のハードルはありますか?

どうしても、勉強したことと実践の間には、一歩分のハードルがあります。

そこで、スモールステップを意識して講義内容を構成しています。「まずはここから」「これくらいならできる」「さらに踏み込めるときはこれもできる」と段階を示して、まずはひとつやってみようと、初めの一歩を踏み出しやすいようにしています。

例えば小児科では、まずワクチン相談を受けてみる。受診した子どもの様子から“危ない/危なくない”の判断ポイントを押さえる。救急外来で帰せるかどうかを判断する。といった最初の段階にだけフォーカスした内容をお願いしています。

最初から全部できなくてもまったく問題ありません。修了生の中塚先生が仰っていたように、「総合医育成プログラムで総合診療の地図を手に入れる」と思ってもらうといいかもしれません。

――ご自身の専門と、総合診療スキルを両立して、うまく診療をされる方に共通することはありますか?

物事を柔軟に捉えていただける方でしょうか。自分が今まで触れてこなかった概念や手法に出会ったときに「そういう考え方もあるよね」と、柔軟に考えられる方は、総合医育成プログラムで学んだことをご自身の診療に上手に活用いただけていると思います。

専門診療と総合診療にはマインドセットの違いがある気がしていて、医師は医学で疾患を治療するだけじゃないという考え方を持っていただけると、ご自身の専門と同時に総合診療の道具をとてもうまく使っていただけると思います。

――疾患を治療するだけではない、というのは総合診療のキーワードのように感じましたがいかがですか

そうですね。疾患を治療するのが医師の仕事なので、当然行うべきものなのですが、ただそれだけではない。疾患を治療するだけだと対応が難しい患者は、社会にたくさんいらっしゃる。 そこで医学だけを道具にしていると行き詰ってしまいますが、医学以外の道具があればできることが増えます。それから、総合診療では他科の医師、看護師、そのほか医療者、地域や患者家族など、他の人の力を借りることも必要です。ノンテクニカルスキルコースで学ぶ、こういった道具は医学部でも専門医教育でもあまり扱いません。これらのスキルを身に付けることは、医師自身の働きやすさにもつながると思います。

累計500名の受講生とともに描く、次のステップ

――今後の展望を教えてください

同期型学習の相互交流や学習の熱量をさらに上げたいと思っています。 

また、JPCAの学術大会でアルムナイ(卒業生)の集いを開催することも考えています。2018年の開始から500名ほどに受講いただいていますが、2020年からは完全オンラインで、受講生同士、実際にお会いしていない方がほとんどです。リアルに会う機会が新しい刺激になるのではないかと思っています。

それから、プログラム以外に、総合診療を学びたい先生方へ、オーダーメイドの教育やコンサルティング、伴走の仕組みを整えていけたらと考えています。

――受講を迷っている方へ、メッセージをお願いします

とにかく、一歩踏み出してください。  私たちは全力でサポートします。一歩踏み出していただければ、多分、いや、絶対に、診療の幅を広げるお役に立てるプログラムです。

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菅家 智史(かんけ さとし)
福島県立医科大学 総合内科・総合診療学講座

2004年福島県立医科大学卒。北海道勤医協中央病院で初期臨床研修を修了。福島県立医科大学家庭医療学専門医コースを修了し家庭医療専門医を取得。2012年より福島県立医科大学医学部地域・家庭医療学講座の教員として卒前教育〜卒後教育に関わる。2014年福島県立医科大学大学院医学研究科を修了し博士(医学)を取得。2023年日本専門医機構総合診療専門医取得。「総合診療医・家庭医が増えることは地域住民のWell-beingの向上につながる」という考えのもと総合診療医・家庭医の育成に取り組んでいる。趣味はバスケットボール観戦、トレーディングカードゲーム、福島の美味しい日本酒。

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