団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年問題への対応として進められてきた「地域医療構想」は、2040年を見据えた次のフェーズに進んでいます。病床の機能分化・連携から、外来・在宅医療・介護までを含めた「地域完結型」の医療提供体制へ。
地域医療構想が目指す姿は、現役で働く医師の今後のキャリア形成と無関係ではありません。とくに今回の見直しで、地域における病床数だけでなく、個々の病院がその地域でどの機能を担うかが、地域ごとに決められていきます。集学的治療を行う医療機関は集約化され、多くの急性期病院は高齢者救急・地域救急へとその機能を移行する流れは避けられません。
本記事では、キャリアを考える一助となるよう、地域医療構想の基本的な仕組みと最新の方針、今後のスケジュールを解説します。
地域医療構想とは
制度の目的と背景
地域医療構想とは、将来の人口動態を見据えて、地域ごとに必要な病床数と医療機能の分担を定める計画です。人口減少および高齢患者の増加を見据えて、持続可能かつ最適な医療を提供するために2014年に策定されました。都道府県ごとに設定された約300の構想区域を対象に、2025年に必要となる病床数を機能別に推計し、各地域でそれぞれの医療機関がその機能を分担して担っていくことを目的としてきました。2025年までの結果を踏まえ、2040年に向けた新しい地域医療構想の策定が始まっています。2025年に報告された状況を振り返り、その後に2040年に向けた変化をみていきます。
病床の機能分化・連携の現状
2014年に開始した地域医療構想では、病床を「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4区分に分ける病床機能報告制度が導入されました。全国の総必要病床数とともに病床機能ごとに、2025年の必要病床数推計に基づいて病床数の整理が行われました。2025年の結果として、全国の報告病床数は2015年の125.1万床から2025年には116.4万床まで減少し、2025年の必要病床数の推計(119.1万床)を下回るまで病床数の削減が進みました。1)2) 一方、病床機能別にみると、複数の区分で目標に達していません。高度急性期は目標13万床に対して報告は16万床。急性期は目標40.1万床に対して報告は50.0万床、回復期は目標37.5万床に対して報告では21.1万床。高度急性期は3万床(3%)、急性期は9.9万床(9%)の削減が必要で、回復期は16.4万床(13%)の追加が必要という結果でした。

図1:2025年・2040年の病床機能別必要病床数の比較グラフ2)
この先、新しい地域医療構想を読むうえで押さえておきたいのは、病床機能の4区分のうち「回復期機能」が「包括期機能」に変わったことです。3)4)
「地域医療構想策定ガイドライン」には、次のように記載されています。
「病床の機能区分については、2040年に向けて増加する高齢者救急等の受け皿として急性期と回復期の機能を併せ持つ機能が重要となること等を踏まえ、これまでの4区分のうち、従来の『回復期機能』については、『高齢者等の急性期患者について、治療と入院早期からのリハビリテーション等を行い、早期の在宅復帰を目的とした治し支える医療を提供する機能』及び従来の『回復期機能』を併せて、『包括期機能』として位置付けることとしている。」
包括期機能とは、従来の回復期機能に加えて、高齢者等の急性期患者に対する「治し支える医療」を担う機能を併せ持つものです。これを踏まえて、新しい病床機能別の必要病床数(機械的試算)をみると、高度急性期は2.6万床、急性期は26万床の削減、包括期(従来の回復期に相当する区分)は20.5万床の追加、慢性期は1.3万床の削減が必要という試算です。つまり、多くの急性期病床が包括期病床への機能転換を求められるということです。
医療機関機能 ― 病床ではなく病院そのものを分類する
これまでの地域医療構想は、病棟単位の「病床機能」を軸に議論されてきました。新たな地域医療構想では、これに加えて医療機関そのものが地域で何を担うのかを示す「医療機関機能」という軸が導入されます。
5つの医療機関機能
「地域医療構想策定ガイドライン」では、医療機関機能は次の5つに整理されています。
| 医療機関機能 | ひとことで言うと | おもに求められること |
| 急性期拠点機能 | 手術・救急を集約して担う | 救急医療や手術等を幅広く総合的に提供。加えて災害医療への対応、新興感染症への対応、医育(臨床研修・専門研修)、地域の医療機関への人的協力等、政策的に必要な医療も担う |
| 高齢者救急・地域急性期機能 | 高齢者救急を受け止め、早期退院につなげる | 特定の施設からの受入に限定しない二次救急、受入後早期からの医療・リハビリテーション、早期退院に向けた取組、介護施設の協力医療機関としての連携 |
| 在宅医療等連携機能 | 在宅医療を提供し、支える | 在宅医療の実施、多職種・他機関と連携した24時間対応、診療所による在宅医療の後方支援(入院対応)、介護施設の協力医療機関としての役割 |
| 専門等機能 | 上記3機能以外の専門的・継続的な医療 | 集中的なリハビリテーション、マルチモビディティ(多疾病併存状態)患者への中長期の入院医療、有床診療所の地域に根ざした診療、一部診療科に特化した診療 |
| 医育及び広域診療機能 | 大学病院本院が担う人材育成と広域診療 | 常勤医師・代診医の派遣、卒前・卒後教育をはじめとした医療従事者の育成、小児がんや移植医療など症例数の少ない広域的な診療、都道府県との連携 |

2028年度末までに各病院が担う機能が決まる
各医療機関は、これら5つの機能分類に照らし合わせ、現在担っている機能と診療実績、2040年に担いたい機能を報告します。地域ごとの地域医療構想調整会議で協議し、2028年度末をめどに2040年に各医療機関が担う機能を決定、その後病床数の調整や医療・介護機関の連携などを行っていく流れになっています。
医療機関機能と病床機能は、ガイドラインが明記するとおり「必ずしも一対一で対応するものではない」ものの、次のような対応が想定されています。
| 医療機関機能 | 有することが想定される病床機能 |
| 急性期拠点機能 | 高度急性期機能・急性期機能 |
| 高齢者救急・地域急性期機能 | 包括期機能 |
| 専門等機能のうち「集中的なリハビリテーション」を行う医療機関 | 包括期機能 |
| 専門等機能のうち「高齢者等の中長期にわたる入院医療機能」を担う医療機関 | 慢性期機能 |

※ガイドラインで病床機能との対応が示されているのは上記の4つです。在宅医療等連携機能と医育及び広域診療機能については、対応する病床機能の記載がありません。前者は高齢者救急・地域急性期機能や急性期拠点機能を担う医療機関が併せて報告する場合があり、病床機能は主たる機能に準じます。後者は大学病院本院が担うものと位置付けられています。
先に触れた「急性期から包括期への大規模な転換」が、医療機関機能の枠組みで見るとどういう意味を持つのかがここで見えてきます。急性期病床を減らして包括期病床を増やすということは、多くの病院にとって、急性期拠点機能ではなく高齢者救急・地域急性期機能を担う方向へ舵を切ることとほぼ重なります。
多くの病院は高齢者救急・地域急性期機能を担う未来
医療機関機能の報告には、いくつかのルールがあります。
まず、高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能は、同じ医療機関が両方を報告することはできません。 ガイドラインは「医療資源を多く要する医療や高齢者救急の役割分担を明確化するためのものであり、両機能を一つの医療機関が報告することはしない」としているため、急性期を集約して担うのか、高齢者救急を受け止め地域の急性期を担うのかの二者択一になります。勤務する病院がどちらになるのかによって、数年の間に求められる診療内容が変わる可能性があると予想しておくことは重要でしょう。
さらに、急性期拠点機能については、確保する数の目安がガイドライン3)で明確に示されています。
「急性期拠点機能を担う医療機関については、2040年の人口推計をもとに、人口20万人から30万人程度につき一か所程度を目安に確保する。」
この背景として、二次医療圏内で2日に1日以上緊急手術が発生するのは人口30万人以上が多いこと、人口20万人未満の医療圏では時間外緊急手術がほとんど実施されていない医療圏が一定数存在することなどが挙げられています。急性期拠点機能を確保する数が増えて医療資源や症例が分散すると、24時間の救急医療提供体制の維持が地域全体として困難になり、医育や医療の質の確保に必要な症例数も集積されなくなる。そうした懸念を踏まえた考え方です。
このような制度設計を踏まえて自身が勤務する構想区域の人口を思い浮かべると、いま働いている二次医療圏内にいくつの急性期拠点が確保されうるのか、おおよその見当がつくはずです。では、急性期拠点機能を担わない病院は何を担うのでしょうか。
新たな地域医療構想が目指すのは「地域完結型の医療・介護提供体制」
新たな地域医療構想で2040年にあるべき姿として示されているのが「地域完結型の医療・介護提供体制」です。
特定機能病院や地域医療支援病院などの高度な医療を担う医療機関では急性期医療の強化・集約化を進め病床を削減する一方、身近な地域における日常的な医療を担う「かかりつけ医機能を有する医療機関」を各地域に配置し、その機能を強化するという役割分担が描かれています。

図2:地域完結型の医療・介護提供体制における役割分担5)
このかかりつけ医機能を有する医療機関とは、医療機関機能区分では高齢者救急・地域急性期機能を含む医療機関、病床機能区分では包括期病床を有する医療機関と重なります。こうした施設で期待される医療を提供する具体的なイメージとして、「地域包括医療病棟」が提案されています
高齢者救急の受け皿となる『地域包括医療病棟』とは
地域包括医療病棟では、従来の高度急性期・急性期病床で高齢患者を受け入れ治療することの医療経済的なミスマッチを解消し、軽症・中等症の高齢者救急に特化し、急性期を速やかに離脱すべく包括的な治療と支援ができることが想定されています。
例えば、早期のリハビリテーション実施、低栄養への介入、退院に向けた意思決定支援、在宅復帰に際しての在宅医療・介護との連携といった機能です。これらの役割を果たすため、医師・看護師だけでなく各種療法士や管理栄養士、看護補助者を含む多職種の配置が必要です。
救急で受け止め、早期からリハビリテーションと栄養管理を行い、生活の場へ戻す。診療報酬と地域医療構想という2つの制度が、同じ方向を向いた設計になっているといえます。

図3:地域包括医療病棟のイメージ6)
医師の地域偏在 ― 診療所医師数は2040年に大きく減少する見込み
地域医療構想の実現を難しくしているもう一つの要因が、医師の地域偏在と将来的な担い手不足です。厚生労働省の資料7)には、診療所医師が80歳で引退し後継者がなく、当該の二次医療圏で新規開業もないと仮定した場合の将来推計が示されています。それによると、診療所医師数は北海道で2022年の3,384人から2040年には1,786人、東北で6,229人から2,899人、関東で37,596人から22,011人、中部で17,311人から8,938人まで減少する見込みとされ、いずれの地方でも半数近くまで減少する二次医療圏が広範に見られます。
注目したいのは、人口の減少幅との差です。同時期の人口推移(2020年から2040年、国立社会保障・人口問題研究所の推計に基づく)は、北海道で17.3%減、東北で20.9%減、関東で3.8%減、中部で12.8%減とされています。つまり多くの地域で、患者が減るよりも速いペースで、地域の医療を担う医師がいなくなる可能性があるということです。
病床が再編され、高齢者救急が増え、そのうえで担い手そのものが減っていく。この3つが同時に進むのが、2040年に向けた地域医療の姿です。
なぜ総合的な診療能力を持つ医師の需要が増え続けるのか
このような病床再編・高齢者救急の増加という流れのなかで、患者を総合的に診ることができる医師の存在は一段と重要になっています。
ここまで見てきた医療機関機能の内容を、あらためて医師へのニーズとして捉え直すと、高齢者救急・地域急性期機能の病院では、救急で搬送されてきた高齢者を受け止め治療し、早期からリハビリテーションと退院調整を行い、在宅につなげることが求められます。在宅医療等連携機能の病院では、医療関連の多職種のみならず、介護施設・介護関連職種との連携が求められます。これらはいずれも、特定の臓器・領域の専門性だけで遂行できるタスクではありません。目の前の患者を診療科で切り分けずに受け止め、生活まで見通して判断する力が前提になります。医療機関機能という制度上の枠組みは、そのまま「日本全体でどういう医師が必要とされるか」の設計図にもなっているのです。
しかし、総合診療科の専攻医登録者数をみると、内科をはじめとする主要な診療科に比べ、その数は少数に留まっており、実際に診療の場で求められる人数には到底及びません。専門研修を経て総合診療領域の専門医になる医師だけで、2040年に向けて拡大する需要をまかなうことは現実的とはいえません。
そこで、長期的に総合診療を専門とする医師を育てるのと並行して、すでに何らかの専門を有する医師も総合的な診療に取り組むことができるように、学び直す機会を提供することが必要な人材を確保するために必要であると判断されました。政府は「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2024」8)において「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」9)の設定を提唱し、そのメニューの一つとして「総合的な診療能力を学び直すためのリカレント教育の推進」を掲げています。これを受けて厚生労働省は2025年度より「総合的な診療能力を持つ医師養成のためのリカレント教育推進事業」10)を開始しました。
このリカレント教育事業は、外科や内科など特定の専門分野でキャリアを積んできた医師が、今後必要とされる「総合的な診療能力を有する医師」になることを強力にサポートする仕組みです。
専門分野を活かしながら、診療の幅を広げるという選択
専門分野を極めてきた医師が総合的な診療の視点を身に付けることは、決して専門性を手放すことではありません。かえって、これまでの専門領域での経験が、幅広い診療のなかで強みとして活きる場面も少なくありません。積み上げてきたものの上に、対応できる幅を足していくイメージです。
こうした学び方は、キャリアの途中にある医師にこそ向いています。理由は3つあります。
第一に、働きながら学べること。日々の診療や病院運営を担いながら、まとまった期間を研修に充てるのは現実的ではありません。自分のペースで進められる形式であれば、勤務を続けながら着手できます。
第二に、学んだことが翌日の診療で使えること。すでに患者を診ている医師にとって、学びの成果を試す場は目の前にあります。学んですぐ使い、使ってまた学ぶという循環が回るのは、現役で診療を続けている医師ならではの強みです。
第三に、これまでの専門性が土台として活きること。臨床経験を積んだ医師は、すでに患者の重症度を見極める感覚や、判断を下す型を持っています。そこに幅を足していく学びは、ゼロから積み上げるのとは質が異なります。
このような「総合的な診療能力を有する医師」を目指す医師のためのリカレント教育プログラムの一つが、総合医育成プログラムです。非同期型のeラーニングと同期型のライブ研修を組み合わせ、内科領域を中心とした幅広い診療科の知識・技術に加え、コミュニケーションやチーム医療に関するノンテクニカルスキルまでを体系的に学べる内容になっています。
今後、専門診療に専念できるポストの数は減っていく方向にあります。他方で総合的な診療スキルがある医師の需要は今後も伸び続けるでしょう。総合診療的なスキルやマインドセットがある医師は、需要が増えるものの供給が追い付いていない、つまり希少人材であるといえます。2028年度末以降に病床整理が本格的に進む前に、今後のキャリアに活きるリスキリングとして、総合医育成プログラムを活用してみてはいかがでしょうか。
地域医療構想と総合的な診療能力まとめ
地域医療構想は、2025年問題への対応として始まった病床の機能分化・連携の取り組みから、2040年を見据えて医療提供体制全体を対象とする新たな構想へと進みました。
病床機能では「回復期」が定義を変えて「包括期」として位置づけ直され、さらに医療機関そのものを5つに分類する「医療機関機能」という軸が加わりました。
スケジュールとしては、2028年度末をめどに、各医療機関が2040年に担う機能が決まります。手術や救急を集約して担う急性期拠点機能か、高齢者救急を受け止める高齢者救急・地域急性期機能か。この選択は病院の経営判断にとどまらず、そこで働く医師に求められる診療の中身を変えていきます。
高齢者救急の増加、病床の再編、そして担い手の減少。この流れのなかで価値が高まるのは、診療科の枠を越えて患者を受け止め、生活まで見通して判断できる力です。専門分野を問わず、リカレント教育を通じてその力を広げる道は制度上も位置づけられています。積み上げてきた専門性の上に何を足していくのか。構想が動き出す前のいまこそ、考えてみる価値があるのではないでしょうか。
参考資料
1)厚生労働省医政局地域医療計画課.地域医療構想について.第1回医療政策研修会第1回地域医療構想アドバイザー会議資料2.令和2年10月9日.
2)厚生労働省医政局地域医療計画課「地域医療構想策定ガイドライン参考資料」2026年9月1日閲覧3)厚生労働省医政局.地域医療構想策定ガイドライン. 令和8年7月3日
4)厚生労働省.改正医療法による「新たな地域医療構想」に関する総合確保方針の改正について(報告).第22回医療介護総合確保促進会議資料4.令和8年3月11日
5)厚生労働省医政局総務課. 令和5年度第3回医療政策研修会. かかりつけ医機能について
6)厚生労働省.病床機能名称について.第14回新たな地域医療構想等に関する検討会参考資料1令和6年12月6日
7)厚生労働省.医師偏在対策について.第12回新たな地域医療構想等に関する検討会資料1.令和6年11月20日
8)内閣府.経済財政運営と改革の基本方針2024.令和6年6月21日
9)厚生労働省医政局.医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ.令和6年12月25日
10)厚生労働省.令和8年度総合的な診療能力を持つ医師養成のためのリカレント教育推進事業
実施団体の公募について.